当社の従業員が就業時間外に自家用車であおり運転を行い、事故は発生していないものの、態様が悪質ということで、ドライブレコーダーの映像がワイドショーなどで報道されてしまいました。 幸い、その従業員の氏名や当社の名前までは報道されませんでしたが、ネット上の匿名掲示板では勤務先として当社の名前まで特定されているようです。 当社は運送業で、日ごろから交通事故の防止には細心の注意を払っており、就業規則上も、「飲酒運転その他の重大な交通違反」を懲戒解雇事由と定めています。また、「会社の名誉を著しく棄損したとき」またはこれらに準ずる行為も懲戒解雇事由とされています。 当該従業員を懲戒解雇することは可能でしょうか。
懲戒解雇を含め、使用者による懲戒処分は、基本的には、企業秩序や職場規律を維持するための手段として認められるものですので、業務と全く関係のない場で行われた私生活上の行為を理由として懲戒処分を行いうるか、という問題があります。
この点、最高裁は、「営利を目的とする会社がその名誉、信用その他相当の社会的評価を維持することは、会社の存立ないし事業の運営にとつて不可欠であるから、会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであつても、これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められなければならない」とし、私生活上の行為に対する懲戒処分を容認しています(最判昭和45年3月15日・日本鋼管事件)。
そして、「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」との懲戒解雇事由について、「従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない」とされています(上記日本鋼管事件)。
本件では、あおり運転の危険性が近年大きく報道され、また道路交通法の改正によりあおり運転行為の厳罰化が図られている情勢を踏まえれば、当該従業員の行為の悪質性は高いといえるでしょう。加えて、貴社が運送業者であり、他人の生命や財産に大きな危害を加える危険を常に内在する業務を目的とする上、従業員が1度でもあおり運転により事故を起こせば、社会から厳しい批判を受け、これが直ちに貴社の社会的評価の低下に結び付き、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあると考えられますので、「飲酒運転その他の重大な交通違反」「会社の名誉を著しく棄損したとき」またはこれに準ずるものとして、懲戒解雇処分を下すことはありうるでしょう。※なお、運送業者が、飲酒運転をした従業員を懲戒解雇し、その有効性が認められた事例(東京地判平成29年10月23日労働経済判例速報2340号3頁)参照。
ただし、懲戒解雇は従業員にとって極めて不利益の大きい処分ですので、個別具体的な事情を慎重に検討する必要があります。実際に処分を下す際には、事前に、弁護士に相談いただくことをお勧めいたします。
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