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AIで誰でも訴訟を起こせる時代に――訴えられる側が知っておくべき新たなリスク

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生成AIの普及によって、法律の世界にも大きな変化が生じています。
先日、アメリカで「AIを活用した本人訴訟が急増し、裁判所の負担が大きく増加している」という研究結果が報じられました。
MITと南カリフォルニア大学の研究者による分析では、長年約11%で推移していた本人訴訟(弁護士を付けずに本人が行う訴訟)の割合が、2025年には約17%まで上昇したとされています。
背景にあるのは、ChatGPTやClaudeなどの生成AIの普及です。これまで専門知識が必要だった訴状や申立書の作成が、AIの支援によって容易になった結果、弁護士を付けずに訴訟を提起する人が増えているのです。
このニュースを見て、私が最初に感じたのは「訴える側が便利になった」ということではありません。

「企業や個人が、これまで以上に簡単に訴えられる時代になった」

ということです。

実務でも感じる変化

実は私自身、最近、これまであまり見たことのない法的手続に接する機会が続けてありました。
詳細は控えますが、いずれも当事者本人が手続を進めているケースで、通常であれば弁護士が受任しないような案件と感じました。

AIは司法へのアクセスを広げる

もちろん、この変化を否定的に捉えるべきではありません。
これまで弁護士費用の負担などから法的救済を諦めていた人にとって、AIは法律情報にアクセスする有効な手段になり得ます。
法的手続へのアクセスが広がること自体は、社会にとって望ましい側面もあります。

一方で増える裁判所と相手方の負担

しかし、訴訟提起のハードルだけが下がることには別の問題もあります。
研究によると、AIの普及後、本人訴訟における提出書類や裁判所の記録件数は大幅に増加しています。

AIによって整った外観の書面を容易に作成できるようになった結果、本来であれば提出されなかったかもしれない案件まで裁判所に持ち込まれるようになったからです。
そして、その負担を負うのは裁判所だけではありません。
訴えられた側もまた、対応を迫られます。
たとえ請求に十分な法的根拠がなかったとしても、訴訟が提起されれば内容を確認し、反論し、必要な証拠を準備しなければなりません。

不当要求の手段として利用される可能性

企業のクレーム対応や不当要求対応の現場では、これまでも

  • 身体的な攻撃(暴行、傷害)
  • 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
  • 威圧的な言動
  • 土下座の要求
  • 継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動
  • 拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
  • 差別的な言動
  • 性的な言動
  • 従業員個人への攻撃、要求

などが交渉や圧力の手段として利用されてきました。
今後はこれに加えて、「AIを利用した法的手続き」が新たな手段として利用される可能性があります。
以前であれば、時間や費用、知識の不足から断念されていた案件であっても、AIの支援によって訴状や申立書の作成が容易になれば、「とりあえず訴えてみる」というケースが増えることも考えられます。

「根拠の薄い訴訟」でも無視はできない

企業にとって厄介なのは、請求に理由があるかどうかとは別に、法的手続が開始されれば対応を余儀なくされることです。

  • 社内調査
  • 関係資料の収集
  • 顧問弁護士との協議
  • 裁判所への対応

など、多くの時間とコストが発生します。
また、この問題は企業だけのものではありません。
近隣トラブル、消費者トラブル、インターネット上の投稿をめぐる紛争などにおいて、個人が突然訴訟や法的手続の相手方になる可能性もあります。
AIの普及によって、法的手続のハードルが下がれば、企業だけでなく一般の方が法的紛争に巻き込まれる機会も増えていくかもしれません。

重要なのは「慌てないこと」

突然、訴状や申立書が届くと、多くの人は不安を感じます。
しかし、AIで作成された書面の中には、見た目は専門的でも、法的主張として十分な内容を備えていないものもあります。
重要なのは、

  • 書面の量や形式に圧倒されないこと
  • 感情的に反応しないこと
  • 早い段階で専門家に相談すること

です。
特に不当要求や悪質なクレームが疑われる事案では、初動対応を誤ることで問題が長期化・深刻化することがあります。

AI時代だからこそ冷静な対応を

AIの発展によって、法的手続へのアクセスは確実に広がっています。
これは社会全体としては歓迎すべき変化ですが、その一方で、企業や個人にとっては新たなリスクの増加を意味します。
「訴状が届いた」
「法的措置を示唆された」
「大量の書面が送られてきた」
そのような場合には、相手の勢いに飲まれるのではなく、まず状況を整理し、適切な法的評価を行うことが重要です。
当事務所では、企業・個人を問わず、不当要求対応やカスタマーハラスメント対策をはじめ、突然法的手続の相手方となった場合の対応についてもご相談をお受けしています。このような場面に遭遇した際は、遠慮なくご連絡下さい。

2026年6月15日 
弁護士 細田 祥子