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暴力団対策について(5)

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5回連載で行なった暴力団対策についての最終回です。今回は暴力団への課税について説明します。納税義務は、暴力団にもあります。しかし現状では納税義務が適正に履行されているとはいえません。

1 暴力団への課税

前回のブログで説明した工藤会に関しては、脱税についても最高裁で有罪が確定しています。これは工藤会の組長が約3億円を脱税していた事件です。暴力団は暴力・詐欺などの違法不当な活動によって多額の収入を得ています。工藤会以外で、組長の年間収入が約10億円にのぼることが認定された事件もあります。不法な収入であっても、暴力団がその収入を現実に支配し、これを享受している限り、課税の対象です。不法な収入に対して課税がなされることは国税庁の通達にも書かれています。

2 課税についての日弁連意見、警察庁通達

日弁連は暴力団への課税について「暴力団の上納金に対する課税の適正な実施を求める意見書」を公表し、暴力団への課税を求めています。この意見書は、暴力団組長にも納税義務があり、これを適正に履行しない場合は重加算税などが課されることを明らかにし、また、暴力団への課税は不法な収入を剥奪するという意義があり、税務当局は暴力団への税務調査と税の徴収をすべきことを提言しています。
また、警察庁は「暴力団構成員等に対する課税措置の促進について」という通達を出し、暴力団への課税を促進する方針を定めています。この通達は、警察が把握した暴力団の合法・非合法を問わないあらゆる収入を税務当局に通報し、暴力団の資金を封じることを目的としています。合法・非合法を問わない収入とは、犯罪収益はもちろん、企業から寄付・贈与などの名目によって得たお金も含んでおり、暴力団の全ての収入に対して課税を促進すべきとするものです。

3 収入に対する課税、財産に対する課税

暴力団への課税には、収入に対する課税と、財産に対する課税がありえます。収入に対する課税は、暴力団の合法・非合法を問わない全ての収入に対する課税であり、暴力団における資金の流れ(フロー)を対象とするものです。財産に対する課税は、暴力団がこれまでに蓄積してきた財産(ストック)を対象とするものです。例えば、暴力団組長が交代する時には、旧組長と新組長の間で暴力団の財産が移転すると考えられます。このとき、暴力団の財産に対する税務調査と税の徴収が必要です。収入に対する課税と財産に対する課税の両面で、暴力団に納税義務を適正に履行させることは、課税の公平を実現するものです。
暴力団に納税義務を履行させることは、暴力団の資金を透明にすることにつながります。資金を透明にすることは、暴力団の違法不当な活動を抑止する力になり、さらに、暴力団そのものを解体していく力になります。このことは、暴力団以外の組織犯罪対策にも通じると思われます。
今後、暴力団への課税を強化していくことが求められます。暴力団対策にあたる弁護士としても、議論を活発にし、課税の実現をはかっていきたいと思います。

2024年10月23日 
弁護士 米倉 正実