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ビジネスと人権について

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「ビジネスと人権」という言葉があります。新しい言葉ですが、2020年、日本政府はビジネスと人権についての行動計画を作っていて、今後ますます大きな流れとして、企業の規模を問わず浸透していくものと思います。

ビジネスと人権はさまざまな内容を含んでいますが、大きくは、企業が人権侵害を行なわず、企業活動が影響を及ぼしうる人権侵害について適切な対応と救済を行なうことを言います。私は、ビジネスと人権の特色は、「国際性」、「具体性」、「関係者の広がり」にあると思います。

「国際性」については、ビジネスと人権では、日本の法律における人権だけでなく、国際的な条約等における人権が念頭におかれています。例えば、世界人権宣言、国際人権規約、国際労働機関の宣言等における人権です。ビジネスと人権は日本の企業を世界的な人権保障の中に位置づけるものです。例えば、2023年に問題となったジャニーズ事務所の性被害問題は子どもの権利条約(1989年国連採択)における性的虐待禁止が問題となるものでした。

「具体性」については、企業は、人権一般の保障だけではなく、企業ごと、自社の活動が影響を与えうる具体的な人権課題を特定したうえで、人権侵害を防止する具体的な対応を行ない、人権侵害がある場合はこれを救済することが求められています。例えば、従業員がカスタマー・ハラスメント被害を受ける危険がある場合にこれを人権課題として特定し、対策を行なって従業員の安全を守ることは人権侵害防止の具体的取り組みの一つです。

「関係者の広がり」については、企業が取り組む人権課題の中には、自社の活動が影響を与えうる様々な関係者の人権課題が含まれます。例えば、自社に有利な条件で下請先と取引していて、もしこの取引条件が下請先従業員の労働環境に悪影響を与えている場合、そのことも自社が取り組む人権課題となりえます。

以上のような具体的取り組みの出発点として、企業は、人権についての基本方針を定めることが勧められています。この方針を「人権方針」などの名前で明文化する企業は増えていて、インターネットで「人権方針」を検索すると、多くの企業の「人権方針」を見ることができます。

自社の総合的な価値を高めるため、ビジネスと人権は、すべての企業にとって、取り組み甲斐のあるテーマです。取り組みを進めるには、もちろん企業だけでなく国の役割と責任がとても大きいですし、また、業界団体や専門家からの助言も重要となります。これら各方面と協力しながら、一歩ずつ、進めていけばいいと思います。最初は手探りでかまいませんので、まず「人権方針」の作成から始めてみませんか? 分からないことがあれば、いつでもご相談ください。

2024年3月20日 
弁護士 米倉 正実