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旅館業法改正とカスハラ客の宿泊拒否

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1 カスタマーハラスメントとは

過去のブログ(※1)でも触れましたが、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます)とは、厚生労働省の定義によると、顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるものをいいます(※2)。
特に重要なのは、仮に内容が妥当だったとしても、要求を実現するための手段・態様が不相当であれば、カスハラになるという点です。
こうしたカスハラについては、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)において、事業主は、相談に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮の取組を行うことが望ましい旨も定められました。事業主としては、従業員を守るために、カスハラに対して毅然とした対応をすることが求められており、場合によっては取引を遮断するなどの対応も必要となってきます。

2 これまでの旅館業におけるカスハラ対応の難しさ

このようにカスハラへの取組が望まれる一方で、現実の業務において取引の遮断などの毅然とした対応をとることには様々な困難があります。お客様は神様である、クレームに耐えてこそ一人前である、という様な風潮がその要因の1つですが、旅館業においては、これに加え法的な困難性が存在していました。
というのは、旅館業法では、公衆衛生や旅行者等の利便性といった国民生活の向上等の観点から、一定の場合を除き、宿泊しようとする者の宿泊を拒んではならないというルールがあるのです。これにより、カスハラがあったとしても、宿泊拒否という厳格な対応をとりにくかったのです。

3 旅館業法改正の内容

このような問題点を踏まえ、この度、旅館業法の改正(施行は令和5年12月13日)が行われました。具体的には、宿泊を拒否できる場合として、その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求、具体的には、宿泊料の減額その他のその内容の実現が容易でない事項の要求や、粗野又は乱暴な言動その他の従業者の心身に負担を与える言動を、繰り返したとき(旅館業法第5条第1項3号、旅館業法施行規則第5条の6)が追加されました。
厚生労働省によれば(※3)、これらの行為(特定要求行為)には、

  • 土下座等の社会的相当性を欠く方法による謝罪を繰り返し求める行為
  • 対面や電話、メール等により、長時間にわたって、又は叱責しながら、不当な要求を繰り返し行う行為
  • 当該旅館・ホテルの提供するサービスに瑕疵・過失が認められない要求
  • 当該旅館・ホテルの提供するサービスの内容とは関係がない要求

といったものが含まれており、従前不当要求やカスハラといわれてきた行為があれば、法的に宿泊拒否ができるようになったことになります。

4 旅館業法改正の与える影響

旅館業法改正は、あくまで旅館業における改正ではあります。しかし、カスハラを理由とする取引遮断が認められた点は、他業種においても、より一層カスハラに対して取引遮断などの毅然とした対応をとりやすい風潮を生じさせるのではないかと思いますし、それがどの業界でも当たり前になっていくのではないかと感じています。
この意味でも、どの業界においても、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)が求めている、適切に対応するための体制、具体的には対応マニュアルの策定や従業員研修等を行うことが、より一層必要になっていくだろうと思います。
当事務所も、不当要求やカスハラを多く取り扱っている法律事務所として、今後より一層各企業における体制づくりに協力していきたいと思います(当事務所の不当要求・カスハラ対応専用サイトはこちら)。

2023年12月7日
弁護士 鶴田 昌平