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パワハラ対策の重要性

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1 はじめに

パワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます)とは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものをいうとされています(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」といいます)30条の2第1項)。
令和2年6月1日に改正された労働施策総合推進法が施行されたことにより、大企業にパワハラ防止措置義務が課され(同法30条の2第1項)、昨年4月1日からは中小企業にも同項が適用され、パワハラ防止措置義務が課されました。
法律上の義務となった以上、対策を講ずべきであることは言うまでもありませんが、単に法律上の義務として定められているからという意識でパワハラ対策を講じても、その効果は限定的なものになると考えられます。以下では、パワハラ対策の重要性について述べていきます。

2 パワハラ対策の重要性

令和2年度に厚生労働省により行われた調査によると、企業における過去3年間のハラスメントの相談のうち、パワハラに関する相談は48.2%とされており(※1)、パワハラが企業における労働問題において大きな割合を占めていると言えます。そしてパワハラの影響としては、①企業の安全配慮義務違反や使用者責任に基づく損害賠償責任・②休職や退職によるコストの増加・③労働者の意欲低下などによる生産性の低下などが挙げられます。
まず、企業の損害賠償責任についてですが、例えば、日常的に暴言、暴行等のパワハラがなされたことにより被害者が自死した事案において遺族らから会社及び代表者に対して提起された損害賠償請求事件では、合計約5400万円の賠償が命じられたという事例もあります(※2)。
次に、パワハラによって従業員が休職や退職した場合のコストについてですが、内閣府が作成したパンフレットによると、30代後半、年収約600万円の男性従業員が6ヶ月休職した場合、442万円が追加的にかかるとされています(※3)。
最後に、労働者の意欲低下などによる生産性の低下についてですが、礼節を欠いた言動によりどれだけ生産性が下がるかという実験が参考になると考えられます。実験の内容は被験者にパズルを解いたり、アイデアを出す課題を与えるというものですが、課題を解く前に、被験者をけなし、成績にどのような違いが出るかを検証するというものです。けなされた被験者の成績は、けなされなかった被験者に比べ、成績が大幅に低下したとのことです。さらに、自らはけなされてなくとも他者がけなされているのを目撃した被験者ですら、目撃しなかった被験者に比べ、成績が相当程度低下したとのことです。実際に職場で、大声で怒鳴ったり、暴言を吐いている人を見て、仕事に集中できずに生産性が低下したと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

3 まとめ

上記のとおり、パワハラは、被害者のみならず、会社にとっても多大な悪影響を与えるものであり、企業にとってパワハラ対策は法律上の義務であることを差し置いても重要です。当事務所ではハラスメントの社外通報窓口、パワハラに関する研修・セミナーなども行っていますので、お困りの際にはご相談いただければと思います。

2023年10月12日 
弁護士 志智 哲