障害者差別解消法の改正について
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1.「デフヴォイス~法廷の手話通訳士」を読んで
数年前に読んだ「デフヴォイス~法廷の手話通訳士」(丸山正樹・2015年文春文庫)が、今年の冬にNHKでドラマ化され、また韓国で映画化の予定もあると聞き、改めて読み直してみました。耳が聞こえない両親を持つ主人公が、ある出来事をきっかけに手話通訳士となり、裁判や事件の捜査の際に手話通訳を行う中で、主人公自身も事件に巻き込まれていくという話です。主人公は、様々な人の通訳を行うのですが、同じ耳が聞こえない相手であっても、うまれたときから聞こえないのか、途中で聞こえなくなったのか、どのように手話を学んでいるか等によって必要な配慮は違い、その人に必要なものは何かを考えていかなければならないと感じました。
2.障害者差別解消法の改正
話は変わりますが、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下、「障害者差別解消法」と言います。)が改正され、令和6年4月1日から、従前は努力義務とされていた、事業者による障がいのある人への「合理的配慮」が義務化されることになりました。「合理的配慮」自体は抽象的な内容であり、罰則規定があるわけではないため、今回の法改正により、これをしなければ法律違反になるという明確なものがあるわけではありません。ただし、義務化により、消費者の関心が高まることで、「合理的配慮」をしていなかった事業者が債務不履行責任や不法行為責任を追及されたり、社会的に非難される可能性があり、事業者への影響は小さくないと思います。
「合理的配慮」とは、現行の障害者差別解消法で「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮」(障害者差別解消法8条2項)と定められています。どのような配慮が必要か、どこまでが合理的と言えるかは、個別の事案毎に判断せざるを得ませんが、「前例がない」「できるわけがない」と初めから断るのではなく、まずは話を聞き、可能かどうか検討をするという姿勢が重要です。まさに事業者は「その人に必要なものは何かを考えていくこと」が必要となります。サービスを提供する現場では、臨機応変な対応が求められることもあるため、従業員への指導や、マニュアルの作成も必要になってくるかもしれません。
事業者にとっては負担に感じることもあるかもしれません。しかし、これまでそのサービスを受けることが出来なかった人がサービスを受けられるようになる、障害者の方への配慮が結果的には利用者全体へのサービス向上につながるといったことは、事業者の利益にもつながると思います。今回の改正を機に、「バリアフリー」や「合理的配慮」について考えてみてはいかがでしょうか。
2023年5月29日
弁護士 角谷 茉美