暴力団対策の沿革について
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1 暴力団員による被害
先日、不動産仲介会社の社員と暴力団の幹部が、300万円の現金を詐取しようとしたとして詐欺未遂の疑いにより逮捕されたとのニュースがありました。不動産仲介会社の社員が、指定暴力団の幹部に空き部屋の情報を提供し、当該空き部屋を送付先として、現金を詐取しようとしていたとみて捜査がなされているとのことです。
他にも会社経営者ら8人が、トラブルから守ってもらう目的で、暴力団に対し、飲み会代として合計約1300万円を支払っていたことが、大阪府暴力団排除条例違反だとして、大阪府公安委員会から、暴力団に金品を授受しないように勧告を受けたとのニュースもありました。
昔に比べれば暴力団対策法や暴力団排除条例の効果もあり暴力団構成員の数も減りました。契約書を作成する際には、必ずといっていいほど暴力団排除条項が定められており、市民の中でも暴力団排除意識は広まっているかと思われます。しかし、現在においても「暴力団」と検索すれば、1日に何件もの暴力団員による犯罪に関するニュースが出てくる状態であり、今後も暴力団排除を進めていく必要があります。
このブログでは、暴力団対策の沿革について簡単にご紹介していきたいと思います。
2 暴力団対策の沿革
もともと暴力団とは、①縄張り内で非合法な賭博上を開き利益を上げる集団である博徒、②境内や街頭で営業を行う露天商などの集団のうち縄張りを有しており暴力的不法行為を行うもの、③ゆすり・たかり・窃盗等の違法行為を行っていた不良青少年の集団を一括して呼称したもので、昭和30年代には暴力団との呼称が社会的に定着しました。暴力団は、縄張りをめぐる対立抗争により他の暴力団を吸収しながら勢力を拡大し、昭和38年には団体数5216団体、構成員数18万4091人と構成員及び準構成員の数がピークに達しました。
暴力団による覚醒剤の密売や大規模な対立抗争が社会問題となり、警察は、昭和39年から昭和50年にわたり、三次にわたる暴力団の中枢幹部に対する集中的な検挙(いわゆる頂上作戦)を実施し、暴力団構成員及び準構成員の数は減少しました。暴力団は、主に、覚醒剤の密売、恐喝、賭博等の違法行為により活動資金を得ていましたが、警察の取締りの強化を通じて次第に、以下のような民事介入暴力(暴力や暴力を背景とする威圧行為によって民事紛争等に介入し不当な利益を得ること)により活動資金を得るようになりました。
- 株主権を濫用して会社から不当な利益を得る「総会屋」
- 交通事故の被害者代理人となり高額の賠償金を得る「示談屋」
- 右翼団体を仮装・標ぼうして不当な要求し利益を得る「えせ右翼」
- 地上げ等不動産取引への介入
- 執拗な債権回収
また、民事介入暴力に加え、暴力団の対立抗争に一般人が巻き込まれるなど、暴力団による市民生活への脅威が増大してきたことを背景として、平成3年5月暴力団対策法が制定され、平成4年3月から施行されました。
暴力団対策法により、指定された暴力団の構成員による刑事法令で処罰できない程度の民事介入暴力を取り締まること、及び、対立抗争時に事務所の使用制限を行うことができるようになり、民事介入暴力や対立抗争を抑止等の成果があがりました。
3 現在の状況
その後も暴力団対策法の改正や、平成23年には47都道府県において暴力団排除条例が制定されるなど、暴力団排除の動きは強まり、令和3年末時点では暴力団の構成員及び準構成員の数が約2万4100人まで減少しました。しかし令和3年の暴力団構成員等の検挙人数は1万1735人であり、暴力団が市民生活や経済活動の脅威である状況は変わりません。暴力団に限りませんが、不当要求による被害を防止し、または被害の回復を図るためには、早期に対応することが重要となりますので、不当要求にお困りの場合には、速やかにご相談いただければと思います(当事務所の不当要求対応専用ページはこちら)。
2023年3月1日
弁護士 志智 哲