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カスタマーハラスメントへの対応(任天堂株式会社を参考に)

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任天堂株式会社の規程更新

昨年のことですが、ニンテンドースイッチなどの家庭用ゲーム機でおなじみの任天堂株式会社(以下「任天堂」といいます)が、ホームページの「修理サービス規程/保証規程」を更新し、「カスタマーハラスメントについて」という項目を追加したことが話題になっていました。具体的な内容は、以下の通りです。


1 カスタマーハラスメントについて

お問い合わせの際に、お客様のご要望を実現するための手段として、社会通念上相当な範囲を超える行為(下記のとおりですが、これに限りません)を行うことはご遠慮ください。これらの行為があったと当社が判断した場合、対応をお断りさせていただく場合がございます。更に、当社が悪質と判断した場合には、警察・弁護士等に連絡のうえ、適切な対処をさせていただきます。

  • 威迫・脅迫・威嚇行為
  • 侮辱、人格を否定する発言
  • プライバシー侵害行為
  • 保証の範囲を超えた無償修理の要求など、社会通念上過剰なサービス提供の要求
  • 合理的理由のない当社への謝罪要求や当社関係者への処罰の要求
  • 同じ要望やクレームの過剰な繰り返し等による長時間の拘束行為
  • SNSやインターネット上での誹謗中傷

(https://www.nintendo.co.jp/support/repair/eula/repair_policy.html 参照)


2018年6月に労働施策総合推進法等が改正され、職場におけるパワーハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となったことは、記憶に新しいところです。

これに加え、2020年1月には、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)が策定され、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為(以下「カスタマーハラスメント」)に関して、事業主は、相談に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮の取組を行うことが望ましい旨、また、被害を防止するための取組を行うことが有効である旨が定められました。
このように現在、企業は、パワハラやセクハラだけでなく、カスハラについても対応し、従業員を守ることが求められています。
任天堂による規程更新は、こうした要請への対応の仕方のモデルケースとして参考になります。
以下、どの点が参考になるかについて説明します。

2 お客様は神様ではなく、必要に応じてお断りができるということ

過去のブログでも触れましたが、昨年、厚生労働省はカスタマーハラスメント対策企業マニュアルにおいて、改めてカスハラを次のように定義しました。

“顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの”

カスハラに該当する場合、企業としては原則要求に応じる必要はありません。
企業の中には、もしくは従業員の中には、お客様は神様という意識があり、要求にできるだけ応えなければならないと考えてしまう場合がありますが、規程に明記することで、カスハラに該当する場合、お断りをしていいんだということを意識づけることができ、毅然とした対応をとることが可能となります。
また、顧客との関係でも、あらかじめ規程に明記して公開することで、カスハラを予防する効果もあると考えられます。
任天堂が、「対応をお断りさせていただく場合がございます」と記載しているのは、このような意味で参考になります。

3 場合によっては法的対応もできるものであること

また、カスハラについては、厚生労働省の上記マニュアルにも記載がありますが、態様によっては、傷害罪(刑法204条)、暴行罪(刑法208条)、脅迫罪(刑法222条)、恐喝罪(刑法249条)、強要罪(刑法223条)、名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条)、信用毀損罪・偽計業務妨害罪(刑法233条)、威力業務妨害罪(234条)、不退去罪(刑法130条)といった犯罪に該当する場合があります。
先ほどは、お客様は神様ではない、状況によっては要求をお断りして良い、ということについて述べましたが、さらに状況によっては、神様どころか、相手の行っていることは違法なものであり、法的対応もできるものであることを従業員に意識させることが重要です。この意識により、カスハラを我慢してしまったり、要求に屈してしまったりということをより防ぐ効果があると考えられるためです。また、やはり、相手方に対する抑止効果も期待できます。
任天堂が、「当社が悪質と判断した場合には、警察・弁護士等に連絡のうえ、適切な対処をさせていただきます」と記載しているのは、そのような意味で参考となります。

4 おわりに

当事務所はこれまで多数のお客様から不当要求やカスハラについて相談を受け、対応を行ってきました(当事務所の不当要求対応専用ページはこちら)が、不当要求やカスハラは、どうしてもまず、現場の従業員が矢面に立たされます。従業員が自信をもって対応したり、いざとなったら警察や弁護士に連絡していいんだという気持ちでいられるよう、規程等を整備することは一つの対応策といえるでしょう。

2023年1月19日
弁護士 鶴田昌平