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社会問題化するカスハラ

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1 カスハラとは
2 カスハラと法的責任
3 カスハラ対策の必要性
4 最後に

1 カスハラとは

先日、ある自治体に対し、「職員がコンビニエンスストアの前でアイスクリームを食べている(のはおかしい)」という旨の苦情があった、というニュースを見ました。
皆様はこのニュースについて、どのような感想を持つでしょうか。カスタマーハラスメント(カスハラ)ではないか、と感じた方もいるのではないでしょうか。本ブログでは、カスハラについてお話ししたいと思います。

カスハラについては、現在社会問題化していることを受けて、本年、厚生労働省がカスタマーハラスメント対策企業マニュアルを作成しました。同マニュアルにおいて、カスハラは次のように定義されています。
“顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの”

 上記ニュースは、職員が休憩時間中にコンビニの前でアイスクリームを食べていた、ということのようです。そうであれば、非難されるのは妥当ではありません。仮に職員が休憩時間中にコンビニの前でアイスクリームを食べていたことを理由として、何らかの要求が行われたとすれば、要求の内容に妥当性がないカスハラに該当しうるといえるでしょう。
 では、職員が勤務時間中にコンビニの前でアイスクリームを食べていた場合はどうでしょうか。苦情の内容に妥当性を欠くとまでは言えません。
 しかし、このような苦情であっても、たとえば頻繁に苦情の電話をしたり、誹謗中傷や罵倒をすればカスハラに該当し得ます。
上記マニュアルの定義にありますように、仮に内容が妥当であっても、その手段・態様が不相当な場合にはカスハラに含まれるためです。

2 カスハラと法的責任

上記の通り、仮に苦情の内容が妥当性を欠くものではないとしても、頻繁に苦情の電話をしたり、誹謗中傷や罵倒をすればカスハラに該当し得ます。このようなカスハラに遭うと、従業員や職員は多大な時間や労力をかけることになり、精神的に疲弊していってしまいます。
 企業や組織としては、従業員や職員を守るため、このようなモンスターカスタマーに対して、法的責任の追及をしたいところです。
では、カスハラを行ったことに関し、モンスターカスタマーが企業や組織に対して、何らかの法的責任を負うことはあるでしょうか。
 この点については、市民(モンスターカスタマー)の自治体に対する不法行為に基づく損害賠償責任を認めたものとして、大阪地裁平成28年6月15日判決(判例時報2324号84頁)があります。
この事件では、被告(市民)が原告(大阪市)の職員に対し、

  • 合計50回を超える情報公開請求を行った。週当たり1~2回と多数回に上り、多いときには一日に数回行われることもあった。
  • 公開を求める文書は、「~に関する全文書」、「~が分かる全文書」と広範囲に及び、交付する文書がときには100枚以上の膨大な量となった。
  • 暴言を吐いたり、独自の見解に基づく質問や主張等を延々と繰り返した。
  • 年末年始やゴールデンウィークの直前等、職員による作業時間が確保しにくい時期に集中的に作業量の多い情報公開請求を行い、条例で定められた期限までに対応できなかったときには、罵声を浴びせるなどした。
  • 特定の職員について「採用から現在までの間の経歴・略歴」等の文書についての情報公開請求を繰り返し、これによって取得した情報に基づいて、職員を罵倒したり、誹謗中傷するような発言を繰り返した。
  • 文書に誤記等が存在した場合、内容に影響のないような些細なものであっても、頻繁に電話をかけ、誤記等を指摘した上で謝罪を要求するなどした。
  • 質問文書に対する回答を要求する等の行為を繰り返してきた。
  • 電話をかけて質問を行い、又は面談を強要した上で質問を行い、回答を強要したり、誹謗中傷し、罵倒し又は脅迫するなどの行為を繰り返した。

といった行為をしたものでした。
市民にとって情報公開請求等は正当な権利行使ですが、手段や態様が不相当であり、職員の就業環境が害されていることが明らかです。
そのため、本判決自身はカスハラに当たる、という表現を用いていませんが、カスハラに当たる事例であり、カスハラに当たる事例において損害賠償責任が認められた事例であるということができます。

3 カスハラ対策の必要性

 上記大阪地裁の事例において、対応した職員が要した時間・労力や、それに伴う精神的な苦痛の大きさは計り知れません。
カスハラは、企業や組織に多大な損失を招くものであり、職員や従業員を守るためにも、組織的に、早期に適切な対応が求められます。
ここで、早期に、と述べた点が重要です。
たとえば、冒頭に上げたアイスクリームの事例は、大阪地裁の事例に比べると、易しいものに見えます。しかし、苦情の電話が頻繁にあったら、どうでしょうか。電話だけでなく質問文書が来たら、面談を要求されたら、謝罪を要求されたら、罵声を浴びせられたら・・・大阪地裁の事例と事態は変わらないものとなるでしょう。
このようにカスハラや不当要求の始まりは、些細なものから始まり、段々と悪化していくことが少なくありません。
企業や組織は、カスハラや不当要求の芽を早い段階で見つけ、早期に適切に対処をする必要があるのです。

4 最後に

当事務所はこれまで多数のお客様から不当要求やカスハラについて相談を受け、対応を行ってきました(当事務所の不当要求対応専用ページはこちら)。
しかし、社会においてはカスハラがまだまだ拡がりを見せています。
当事務所としては、より一層皆様のお力となり、早期に適切な対応を行い、よりよい社会を実現できるよう、邁進する所存です。

2022年10月11日
 弁護士 鶴田昌平